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────────……
──……!
誰かが、呼んでいる。
誰かが、泣いている。
──…ぃ…!
何度も何度も。
か細く、弱々しく。
そよ風にすら流されてしまいそうな声で。
──しの…!
あぁ、この声はしろだ。
──しぃ…!
まだ自分も白夜も幼い頃。自分は白夜をしろと呼び、白夜は自分をしのとか、しぃと呼んでいた。
いつからだろう、しろが自分のことを篠霧と呼ぶようになったのは。
中学頃、だっただろうか。その頃は、たった一週間だけでも間を空けると白夜の背が伸びているのがよくわかった。
昔は自分が少し大きかったのに、今では簡単に越された。
でも、自分が突然前触れもなくいなくなると、しろは昔のあだ名を呼び探し回るのだ。
あの年にあの身長で、とても不安そうに顔を歪めて。顔を見せるとほっと安堵した顔をする。
犬みたいだ、と思う時も少なくない。
玄よりよっぽど可愛げのある犬だ。
──しの、しぃ、どこ…!
しろが探してる。
でも、いい加減自分離れするべきと思う時がある。
幼い時に、守り過ぎたのかもしれない。
──しぃ、いなく、ならないで…!
いなくはならないよ。
ただ少し、傍を離れるだけだから。
──しぃ…!お願いだから…!
大丈夫。
しろ、自分はここにいる。
だから泣くな。
だから探すな。
少し、待ってろ。
それまで、強くあるんだ、しろ。
大丈夫。
大丈夫だから。
──……っ!
別の声が呼ぶ。
叫ぶような声だ。
あぁ、この声は。
────────……
《篠霧!さっさと起きろって言ってんだろうが!》
乱暴な声が、篠霧の意識を浮上させた。
瞼が震える。
《篠霧ー!!》
「……うる、さい。」
眉間に力が込もり、篠霧は唸った。
その眉間に何かがぺしぺしと当たる。
いや、叩かれている。
《おーきーろー!てんめぇいい加減にしろよ篠霧!どれだけ熟睡してんだ?あぁ!?》
耳というより、頭に直接響く声に篠霧は不承不承ながらも瞼を上げた。
「……っ。」
最初に見たのは玄の顔と、その後ろにある日の光。
ずっと瞼を下ろしていたから、突然の光は目に痛かった。
《あれか!?寝る子は育つってか!?別になぁ、人間たくさん寝なくても育つんだよ!適度に飯食って適度に運動して適度に寝れば!だから寝てねぇで状況を確認しやがれー!》
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