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犬に、ましてや妖に成長論を語られても。
いやにずきずきと痛む頭を押さえながら、篠霧は上半身を起こした。
《や~っと起きやがった!よくあれだけ寝れるな!》
「……玄、少し黙れ。頭に響く。」
額を手で覆い、残りの片手を玄を制するように翳す。不満そうにしながらも玄は篠霧の言葉に従った。
しばらくして頭痛が治まると、篠霧は盛大にため息をついた。
「……最悪だ。」
《何が。》
「あの世にまで玄がまとわりついてくるなんて……。」
本気で嘆く篠霧に玄は文字通り牙を剥いて、くわりと吠えた。
《悪かったなまとわりついて!仕方ねぇだろこれでも体張ったんだぞ!ていうかここあの世じゃねぇし!》
「なに?」
てっきりあの石段から落ちて死んだと思っていたのに。
言われてみれば、痛いのは頭だけで、頭痛だ。
石段から落ちたならそこらじゅうぶつけて痣だらけか、出血していそうなものなのだが。
篠霧は自分の体をぺたぺた触るが、痛くないし血もつかない。
「……なんで。」
唖然と呟いた篠霧は、違和感に気付いた。
地面が、固くない。
石段の階下にある固くて冷たい石畳の感触がない。
どちらかというと、ふかふかと柔らかい。
篠霧は地面に触れて柔らかさの元をつまみ上げた。
「……落ち葉?」
茶色に変色した、細長い葉。
笹に似た、笹より細い。
改めて周りを見渡し、見上げる。
「た、け……?」
空に向かって伸びる、竹。数本じゃなく、竹林、竹藪と呼べるほどたくさんある。
落ち葉は竹の葉だったのだ。
だが、それは篠霧を混乱に導く要素になった。
「……どうして。どこだ、ここ。」
落ちた場所から玄に引き摺られて移動させられたか。いや、いくら喋る妖の犬でも人一人を引き摺るにも限度があるし、何より。
何より。
あの近くに、いや、あの田舎に、竹藪なんてない。
「なん…!」
慌てて立ち上がり周りを見渡す篠霧。
そして、光がある方に駆け出そうとする篠霧の頭に、声が響いた。
《待て、篠霧。》
ぴたりと、篠霧は足を止めた。
その時、また違和感に気付く。
振り返ると玄がいる。
その玄が口を開いた。
《不用意に動くな。俺がわかる限り説明してやるから。》
声が響く。
そう、いつもは耳から聞こえるのに。
今は、頭に『直接』響くのだ。
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