手伝って付き纏われて

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  「……あっつい。」   両手に風呂敷包みを持って畦道を歩く水叉篠霧は、照りつける日光に疲れた様子だった。   今日は土曜日。 公立高校に通う十七歳の篠霧は、休日の今日、祖父が住む田舎に訪れていた。 この田舎から少し離れた町に自宅がある篠霧がここを訪れるのは稀じゃない。 週末の暇な日はよく訪れるのだ。   篠霧に両親はいない。 幼い頃亡くなった。 そして、親戚の少なかった篠霧は引き取り手が見つかるまで数ヶ月、祖父がいるこの田園が広がり山々がのぞめる田舎で暮らした。 数ヶ月後引き取り手が見つかると、篠霧はこの田舎を離れたが、ことあるごとに訪れていた。   篠霧は母方の親戚の元で、今は暮らしている。 子供がいなかったために篠霧は歓迎された。 その夫婦の優しさにより、篠霧は元気に育った。 本当は篠霧を引き取りたかったが、年寄りの男手ひとつでは育てられないと泣く泣く諦めた祖父は、その事実をとても嬉しがっていた。 また、よく訪れてくれることも祖父が喜ぶことを知っている篠霧は、よっぽどのことがない限り田舎は訪れるようにしていた。   その喜びに応えようと、今日篠霧は祖父の手伝いを買って出たのだった。   祖父は骨董収集が趣味で、篠霧が幼い頃骨董品の品々をよく見せてもらっていた記憶がある。 今も数は増えるばかりで、とうとう祖父の自宅にある納屋に収まり切らなくなってしまった。 そのため、祖父は友人に倉を貸してもらい、納屋に溢れんばかりの骨董品をその倉に移すことにしたのだ。  その作業を、篠霧は今手伝っている。   風呂敷に包まれているのは祖父の骨董品。篠霧はそれを目的地の倉まで運んでいる途中だった。   本当は自動車を使えば効率がいいのだが、揺れで品物が傷付いてしまうことを危惧して人の手によって運ぶことにしたのだ。   「……暑い。でもあっちよりは少し涼しい、か?」   今住む町の環境を思い出しながら、篠霧は歩く。   町の暑い日は、大概蒸し暑い。 だがこの田舎は山と田園があるおかげか、日光は強くとも蒸し暑いことは少なかった。どちらかというとすっきりした暑さだ。   でも今は七月の頭。 いくら蒸し暑くなくとも、日光は肌を焼くようにじりじりと鋭かった。   背中の真ん中辺りまで伸びた黒髪。つむじの高さに結い上げた濡羽色の髪を揺らしながら、篠霧は風呂敷をよいしょと持ち直した。  
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