手伝って付き纏われて

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  「……まったく、物好きはどっちだ。その上位の妖とやらが人間に付いてまわるなんてお笑いものじゃないか?」   「はっ。俺に陰口叩けるやつなんていやしないっての。」   相変わらず玄はとことこと付いてくる。 喋りさえしなければそれなりに愛嬌のあるただの犬なのにと、篠霧はいつも内心思う。   畦道が終わり、舗装された道に出るとぽつぽつと民家が多くなってきた。 この辺りでは民家が多い方で、日用品が売っている店もこの辺りにある。 ここを抜ければ、篠霧の目指す倉が見えてくるはずだ。   今は昼を過ぎたくらいで、何人かが道に出て打ち水をしている。 篠霧の姿を見かけると笑顔で挨拶をしてくれた。 すでにこの田舎の一員と捕らえられている篠霧も微笑して返した。   このようなゆっくりとした雰囲気が、篠霧は好きだった。   そんな篠霧の後を歩く玄にも、人々は声をかける。健気だね、と。   人々の玄に対する認識は、篠霧に懐いている野良犬、だ。 誰も玄が人外の妖と呼ばれるものと気付いておらず、ただの野良犬と思っているのだ。 玄自身も正体を曝す気はないらしく、篠霧以外の人間の前ではただの犬として振る舞う。 篠霧は言っても信じてもらえないだろうと言い振らす気もなかった。  するとその時、篠霧の視界に見慣れた姿が映った。   「……しろ!」   風呂敷を持ったままの片手を上げて篠霧は声を上げる。   その声に気付いた少年が顔を上げた。   「……篠霧。」   無表情に近い少年の顔が僅かに綻んだ。 少年が足早に篠霧に近付く。 玄は、立ち止まった篠霧の足下で一瞬嫌そうに顔を歪ませた。   「しろ、また稽古か?」   こくんと、篠霧と同じ年に見える少年は頷いた。   篠霧にしろと呼ばれた少年の名前は赤羽白夜(あかばびゃくや)。 若い人間が少ないこの田舎で唯一と言っていいほど篠霧と年が同じの人間だ。   白夜の顔は涼しげで整っており、表情が少ない。 それに加え、白夜は白子と言われる色素が薄い体質なため色白。髪はどこか白っぽく、瞳は灰紫色でとても印象深い。全体的によく言えば儚い、悪く言えば弱々しい印象を受ける少年だった。   白夜とは今まで小学、中学、そして今の高校が違うため日常で会うことはないが、篠霧が田舎を訪れるたびよく遊び相手になってくれて、今でもこうして話し相手になる間柄だった。  
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