手伝って付き纏われて

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  ちなみに白夜はこの田舎にある赤羽道場の息子だ。 主に剣術を学ぶ道場だが、田舎だからと言って決して腕が悪いわけじゃない。 白夜の祖父が師範、父が師範代と、腕は引き継がれている。 息子の白夜にもその腕前は引き継がれ、印象と違いかなりの腕だった。 そのため白夜の名前は大会上位の常連。 だが決してその実力を鼻にかけることはせず、そんなところの性格が今まで篠霧との付き合いを保ってきたのだ。   「しろ、そろそろ夏の大会近いだろう?頑張れよ。」   篠霧が白夜をしろと呼ぶのは、昔からの愛称が取れず癖になっているためだ。 白夜の「白」という字を取って「しろ」。  白夜も嫌がらず、受け入れている。   篠霧の激励に白夜は微笑んだ。   「うん。……頑張る。」   柔らかな雰囲気を纏う白夜だが、竹刀を持つとそれは一転する。 何度も見ているが、篠霧はそれにいつも舌を巻くのだ。   と、白夜の灰紫色の瞳が篠霧の持つ風呂敷を映した。   「……それ、どうしたの?」   あぁと、篠霧は笑う。   「じいちゃんの手伝い。この骨董品を倉に運ぶんだ。」   「……手伝おうか?」   いつも誰に対しても言葉少ない白夜だが、心はとても豊かだと知っている。篠霧は首を振った。   「大丈夫。もうすぐそこだから。」   「…………そっか。」   白夜は無理強いはしない。代わりというように、篠霧は言った。   「この手伝いが終わったら道場に顔出すよ。またしろが稽古してくれ。」   優しく白夜は笑った。   「……うん。待ってる。」             じじと父さんも楽しみにしてると付け加えて、白夜が篠霧の頭をくしゃりと撫でた。 この行為は簡単な約束を交わした時にする篠霧に対する白夜の癖だ。   変わらないなと笑って、篠霧は白夜に軽く手を振ってから歩き出した。 変わったとしたら、いつの間にか白夜が自分の身長を越していたことだと、篠霧は思った。 白夜はその後ろ姿を見つめる。  だが、白夜の柔らかな雰囲気は瞬時に掻き消えて、鋭いものに変わった。 鋭利な輝きを宿す灰紫色の瞳は、下にいる黒い犬を見下ろす。   「……まだ篠霧に付き纏うか、妖め。」   黒い犬、玄は面倒臭そうに尻尾で地面を叩いて、ため息をつきそうな表情で白夜を見上げた。   「……毎回思うが、見事に雰囲気を使い分けるんだな。」   白夜の目の前で、玄は言葉を発した。  
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