手伝って付き纏われて

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  玄は、なぜか篠霧が田舎に訪れた時にしか現れない。 現れて、篠霧に付いてまわる。 白夜が玄がただの犬じゃないと気付いたのは、その姿を三回ほど見た頃だ。 篠霧は白夜が気付いていることを知らないし、白夜も言うつもりもない。玄は見破ったのなら仕方ないと開き直っている。 だが、白夜は篠霧には決して見せない敵意の視線を玄に向けるようになった。 しかも、篠霧がいない時限定で。 「なんの恨みがあるか知らないが、会うたび会うたび睨むな、鬱陶しい。」 「だったら篠霧に近付くな。」 「へーへーずいぶん篠霧にお熱なこって。」 軽くあしらうと、白夜の眼光が鋭くなる。 それを面白そうに見て、玄はほくそ笑む。 「……篠霧を傷付けたら、承知しない。」 「傷付けると決め付けるか。その証拠は?」 「ない。ないが、傷付けないという証拠もない。」 はぁと、玄は息を吐く。 融通のきかないがきだ。 「篠霧もこんなやつに想われるなんてな。幸なのか不幸なのか。」 それを聞いてむっと白夜は顔をしかめる。 「……まぁ、想っているのに気付かれてないお前は、少なくとも不幸だな。『しろちゃん』よ。」 途端、白夜の気が刺すようなぴりぴりしたものに変わった。 その変化に気付いても、玄はこれといった反応はしない。 「──黙れよ、駄犬が。」 ふんっと笑った後、玄はぎっと白夜を睨み上げた。 漆黒の瞳がうっすらと赤みを帯びた。 「────黙るのはそっちだ。棒振り回すのが少しできる程度でいきがるなよ、くそがき。」 しばらく、一人と一匹の気が拮抗した。 それを終えたのは、玄だった。 「………やめた。」 ふいと顔を逸らし、玄は首を後ろ足でわしゃわしゃと掻く。 当たり前の姿なのだが、あまりに犬らしい行為に白夜は表情に出さないものの内心驚いた。 「なんか面倒臭ぇや。俺は行くぞ。」 とことこと玄は歩き始める。 白夜はその姿をじっと見つめる。 「安心しろ。篠霧は傷付けないない。そうしたと思ったらお前の得意な剣術で叩けばいい。」 篠霧に追い付こうと、玄は早足になる。 そこにとどまる白夜の姿はだんだんと小さくなり、ついに見えなくなった。 その途端、玄は舌打ちする。ただの犬にはできない芸当だ。 あの子供、殺気を向けても怯むどころか逆に向けてきた。 篠霧が関わると、あいつは殺気を隠しもしない。 「……末恐ろしいがきだ。」  
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