8303人が本棚に入れています
本棚に追加
必死に説き伏せられて、篠霧は渋々体勢を低くして玄と共に竹藪を進んだ。
やがて、生け垣が見えてきた。
人の気配がする。
《いいか、何を見ても声を上げるなよ。あと、生け垣からこっそり顔出すだけにしろ。》
返事の代わりに篠霧は頷いて、生け垣からそっと顔を出した。
人々が行き交っている。
数十秒ほどそれを黙って見た篠霧は、生け垣から顔を引っ込めると眉間をとんとんと叩いた。
《……大丈夫か?》
気遣わしげに玄が声をかけてくる。
もう一度篠霧は生け垣の向こうを見た。
でもやはり、景色は変わらなかった。
行き交う人々は、着物だった。
女性は小袖(着物)。男性は袴、上に羽織、さらに腰に刀と脇差。
旅装の者もいる。
街道かなにかなのだろう。
現代日本では見かけられない光景だ。
篠霧は自分の格好を見直した。
夏だから半袖シャツに、ジーンズといったラフな格好だ。
だが、あの道にこの格好で出たらかなり目立ち、逆に異質になってしまう。確かに、玄が言った通り動かない方がよかった。
《……わかったか?》
微動だにしない篠霧に、玄は言った。
すると、意外にもしっかりした足取りで篠霧はさっきの場所へ歩いていく。
《篠霧?》
呼んでも篠霧は反応しないが、歩く速度が速い。
唐突に、篠霧は止まった。
「……ぇ……っ!」
《……篠霧?》
なんか、不穏な気配が篠霧から滲み出ているような。
瞬間。
「――ふざけんじゃねぇっ!!」
叫び声と共に、篠霧の目の前にあった太い竹が大きくしなった。
叫ぶと同時に、篠霧が竹に強烈な蹴りを食らわせたのだ。
ざわざわと竹の葉が騒ぐ。
太い竹の根元に近いところ蹴ったのにしなったということは、篠霧の力がそれだけ凄まじかったというわけだ。
それはさておき。
玄は慌てた。
《わっ馬鹿!なにやってんだよ!》
突然の叫び声に大きく揺れた竹。
さっきの人々が行き交う道からそれなりに離れていても、不審に思われて気付かれるかもしれない。
今は妖の力も十分に発揮できないのに、ただでさえ厄介な状況をさらに厄介しないでもらいたい。
玄は息を殺して道の方の様子を窺った。
幸い、不審に思って様子を見にくる者はない。
よかったと、玄は安堵した。
残る問題は。
ちらりと玄は篠霧を見る。

最初のコメントを投稿しよう!