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私はゆっくりと瞼を閉じた。
この汚い体育マットの上で私は朝を迎えるのだろう。
きっとこのまま誰にも気付かれることなんてないのだ。
明日は休日だ。
朝から部活の練習に来た生徒たちは、この体育倉庫を開け、一晩をここで過ごした私を見てどう思うだろうか?
不審がられるのはいい。
心配されるのも別にいい。
でも、どうしても憐れまれたくはなかった。
“可哀想に”
そう思われたくはない。
本当の私は“そう”ではないのだ。
私はいつでも輪の中心にいたはずで、だれでもクラスの全員に好かれていたはずで、詩織などとはむしろ親友と呼びあえる仲であったはずなのだ。
非の打ちどころがないように自分なりの完璧な善人を演じて、それを受け入れられ、認められ、羨ましがられることはあっても憐れまれるようなことはない。
それが私だったはずなのだ。
こんな惨めでちっぽけなのは本当の私であってはならない。
だから私は再び夢を見る。
今度の夢は瞼を閉じて見る夢だけれど、それでも壊れたものを蜃気楼の中で取り戻すのだ。
今はただそれだけでいい。
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