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今思えば、始まりは昨日の昼だった。
何となく、背中がざわざわするような悪寒。
前日までは暖かな日が続いていたので、少し薄着だったのだが
午後からは、気温が低くなって。
悪寒はそのせいか、と思っていたけれど。
今思えば、あれがインフルエンザの症状の始まりだったのだろう。
しかも、あいつ…山中の買い物だー、ゲーセンだー、に付き合わされて。
今は日が沈みきった、暗くて寒い中を2人で歩いて帰っているが、ちょっと震えが来ている。
寒い。指先の感覚がほとんど無い。
そんな俺を見て、山中が言う。
「どしたの、とらちん寒いの?」
「ああ、ちょっとな。」
「んじゃ、はい。」
手を握られた。
学校では、こいつの抱きつき癖とか皆もう知っているが
今は外だから、思わず固まる俺に
「誰も見てない見てない。」
にっこにこ笑うあいつ。
う…まあ暗いしな。大丈夫だろう、多分。
それに何より、温かい。
片手だけなのが残念かもしれない。
「うわー、とらちんの手マジで冷たっ! 冷え性!?」
「いや違う…女じゃねーんだから、冷え性とかなんねーよ。」
「それは分かってるって。
毎日、手ー握ってるしー。」
山中がニコニコ笑って、繋いでいる手にぎゅーっと力をこめる。
…ああ確かに、学校で毎日必ず2~3回は手を握られている。
始めは何すんだと騒いでいたが、最近はもうあまり気にしていない。
俺の焦る様子を、楽しんでいる感じもするし。
…こいつはますます調子にのって、べたべたひっついてくるようになってきたが…。
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