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殺し殺される混沌
主人公が初めて虐殺の現場に遭遇する場面がある。
ルワンダの大虐殺は、そのほとんどが銃ではなく人々の日用品の、ナタで行われたといわれる。
ナタを使い、人間が、人間を、殺す…。恐ろしい光景。目をそらしたいのに、瞬きすらできない。
戦慄するジョーの視界に、見慣れた人の姿が飛び込んできた。
ジョーの同僚だ。彼の手には、ナタが握られている。
このときジョーは、自分の同僚が虐殺者の一人となっていた事実を知った。彼はフツ族だった。
彼はジョーとも仲が良く、学校では職員としてツチ族の子にもフツ族の子にも接していた。とても気のいい青年だった。
その彼が今、民兵に混じってそこにいる。
彼がすっかり鬼のような顔に変貌してしまっていた…というのならまだマシだったかもしれない。この世の者とは思えないような、残忍な顔でもしていれば…。
けれど目の前にいる彼は、普段ジョーと冗談を言い合っていた時と何一つ変わらない、人懐っこい顔のまま、血まみれのナタを握っている。
ジョーは言葉を失う。
一方学校では、一人の男がリンチを受けている。
学校を包囲するフツ族の一員だったその男は、ナタを片手に敷地内へ特攻してきた。それを見つけたツチ族の人々は、一丸となって彼を殺そうとしている。
「俺は家に帰る。ツチ族は、昔のようにまた俺たちフツ族を奴隷にしようとしているんだ」
そう言い残して、あの同僚は学校を出ていった。
もし学校に留まっていたら、彼も同じようにリンチにあっていたに違いない。
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