大陸

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ラジヲが寂しく流れる部屋に取り残された川島は、ハッと我に返る。 こんな事は、帝國大学時代からよくあったことであると思い出したのである。 川島は、ホルテン兄弟の所在が判明したことを、帝國科学技術研究所の高崎少佐に報告をしなくてはならない。 本来なら室長兼責任者である紀藤がしなくてはならない仕事だが、紀藤が出て行った今、自分しか出来る者がいない。 川島は電話を借りるため、同じフロアにある【満鉄調査部】に向かう。 満鉄のシンクタンクとして有名な【満鉄調査部】は、帝國科学技術研究所の設立により色あせたように見えたが、決してそうではない。 岸信介や山口慎一、都留重人、布村一夫などの後の政治家、文学者、経済学者、民俗学者などの文化面に関しては圧倒的に輝きを見せている。 満鉄調査部の部屋は、向かうモノの違いはあるが、同じプロとしての空気を感じられるので、川島は至極居心地が良かった。 満鉄調査部の職員も、紀藤達に対しては好意を持って接してくれるのである。 「お電話お借りします。」 川島は電話を手にとって、近くにいる職員に明るい声で言った。 「そんなこと、いちいちお伺いしなくても。」 職員は、気持ちの良い笑顔で、川島に気を遣わなくてもいいと言う。 川島は、軽く頭を下げる。 紀藤や川島等が数々の無理を言ってきたのにもかかわらず、この気さくに接してくれる調査部の雰囲気が、川島は好きでたまらないのだ。 『...はい、こちら電話交換所です。どちらにお繋ぎしましょうか?』 電話交換手は、女性にとって花形の職場だった。 受話器からは、この仕事に対して誇りを持った若い女性の声が聞こえてきた。 「帝國本土の千葉県館山基地、帝國科学技術研究所、航空装備部の高崎をお願いします。」 川島は、電話交換手につなぐ相手先を告げる。 『…わかりました、しばしお待ちください。』 川島が待っていると、先ほどの電話交換手が言いにくそうに言った。 『ええと、申し訳ありませんが、こちらでお繋ぎできるところに、その様な部署はございません・・・』 「えっ!?」 川島は、驚いた確かに自分はそこに行ったことはある。なのに何故無いと言われるのかが分からなかった。
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