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川島は声も出ないほどに驚いた。
自分は確かに、帝科研の航空装備部に行ったことがある。
それなのに、「そんなところは無い」と言われる理由が分からなかった。
『どうされますか?』
電話交換手は、恐る恐ると言ったような口調で川島に聞く。
当たり前である。
帝國科学技術研究所は、帝國軍とは全く関係ない皇室運営による宮内省直轄の研究機関だったが、設立当初には帝國海軍連合艦隊司令部が、昭和十七年七月に帝國軍大改編が実施され國防府が創設されてからは、宮内省から國防府へ所轄官庁が変わっていたのである。
「ああっ!すみません、間違えました!東京國防府経由で帝國科学技術研究所、航空装備部の高崎賢一をお願いします!」
川島は、電話口でついつい大きな声を出してしまう。
こうなると、さすがに調査部の職員は嫌な顔をする。
川島は十分ほど待つ。手動交換の時代では当たり前の待ち時間である。
『こちら高崎ですが。』
「ご無沙汰してります。H計画の川島です。」
『おおっ、紀藤君は?』
高崎中佐は、いつもなら紀藤が電話をしてくることもあり、そう川島にたずねた。
「はい、ホルテン兄弟の所在が判明したので…今紀藤さんは・・・」
『なに!ホルテン兄弟の所在が掴めたのか!?』
川島は紀藤の動向を言おうとするが、とうの高崎中佐はホルテン兄弟の所在が掴めたことに興奮し、すっかりそっちのけになった。
「・・・はい、紀藤さんはそのために満州派遣軍司令部に向かわれました。」
電話にて川島と高崎は、今回の件についてはベルリン駐在海軍武官にも動いてもらう様に働きかけることに決定、さらに航空装備部の航空機体課・発動機課・飛行実験課・搭載機課・技術移転課から各一名を満州に送る事を決め、ここにH計画が本格的に始動した。
つまり、ホルテン兄弟を満州に招聘するために、ベルリン駐在の陸軍・海軍武官両方から働きかけてもらうこととなった。
事前に、三菱商事による幹事間折衝が行われるが、あまり期待できないのが現実である。
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