6歳

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「ただぃま………。」 返ってくるハズのない返事、 吹き抜けの居間の天井のおかげで無駄に響く自分の帰宅を知らせる言葉。 ぶら下がるシャンデリアを見つめながら6歳の私は孤独を感じていた。 胸の内はいつも "5時になれば母が帰っては来る"という事。 それだけが毎日希望という名の救いでもあった。 私の父は消防士で、一度仕事に行けば24時間勤務で次の日は休みだから家には一日おきにいるけれど… 父は母が帰ってくるまで自分の部屋からは一歩も出ては来なかった。 でもむしろ父が2階の自分の部屋から1階に降りて居間に来るのは 機嫌が悪い時か、私を叱る時だけだったから安心もしていた。 父に私は恐怖を覚えていたから。 自分の育った家なのにいつも一人ぼっち。 一人ぼっちぢゃない時は決まって父の前で正座。 友達は遊んでいるのに私は父に幼稚園の時から仕付けられた事を確実に母が帰ってくるまでにやらなければいけない。
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