喪失

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「復活!!!」 白い壁、白い床、白い天井に囲まれた病院の個室のベッドの上でゼルが叫んだ。 その横ではアルドが椅子に座り、ため息をついている。 「まさか二日で二度も君を治療することになるとは・・・」 アルドは虚ろな表情でつぶやくと椅子から立ち上がり、頭を掻く。 ゼル、ケイト、ロバート、リュック、ゼル。 二日もの間にこれだけの治療を行ったアルドの疲労は限界にきていた。 これから別の病室に向かい、束の治療をすることなど不可能だ。 アルドはゼルが退いた途端にベッドに倒れ込んだ。 「僕は休ませてもらうよ。おやすみ」 「おう。明日は束の治療、頼んだぜ」 ゼルは陽気に言うとコートをはおった。 そして病室から出ていく。 ここはSCH政府が管理している病院で、傷ついた能力者が搬送されてくる。 医者や看護師が皆能力者というわけではないが、能力者の存在を知る唯一の病院なのだ。 普通の病院に搬送されてしまうと、状況説明があるので能力者を隠しきれなくなってしまう可能性がある。 ここはそんな面倒なことが起きないように配置された、政府の特務機関のひとつである。 バーナードもこの病院に搬送され、最上階の個室にいる。 またティタンによる襲撃の可能性がある為、二人のSCH捜査官がその病室を守っているようだ。 つまりはボディーガードのようなものである。 ゼルは服装を正し、廊下を進んでいく。 表情は穏やかだが、実をいうと膓(はらわた)が煮えくり返っていた。 脱獄囚・・・ 正直、舐めていた。 ヘルーダやマローダの囚人があそこまで強いとは考えもしなかった。 ゼルは油断していた自分に腹を立て、唇を噛みしめる。 ケイトやロバートの怪我。 それを束は自分の責任にしているだろう。 束とはそういう男だ。 だが、自分にも責任があるとゼルは思い、束のところに向かっている。 アルドによる束の治療は済んでおらず、今だに絶対安静中だ。 ゼルは病室前にやってくると、ノックもせずにドアを開いた。
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