始動

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ゼウス達がアパートを出てから30分が経った頃。 SCH捜査本部にはいつものように少人数の捜査官しかいなかった。 束とバーナード、そしてアルドが不在の今、捜査官達の土気は少なからず落ちていた。 ビルの最上階にいるのは、ゼルとルアナ、そしてアビーとジャック。 さらに束縛コンビの異名を持つジェームズとサラ。 この六人だ。 他の捜査官は相変わらず、ティタンの捜索や脱獄囚の行方を追っている。 バーナードという署長不在の今、本部を請け負っているのは部長のエリックという男であり、その指揮力はバーナードには及ばない。 さらに、バーナードと同様にエリックの戦闘能力は皆無であり、ゼウス理論で言えば補助タイプにあたる能力者だ。 一般的にはデスクワークの担当で、前線に立つことはない。 結果、多くのSCH捜査官を野放しにしてしまっている。 元々、あまり統率がとれていない組織が、以前にも増して勝手をやり始めている。 しかし、エリックはそれをあえてほっておいた。 百人以上いるSCHをあえて街に放つことでゼウス達の動きを封じようと考えたのだ。 が、この作戦はゼウスにとっては好都合。 エリックはゼウスの恐ろしさを改めて痛感することになるのである。 ゼルは自分のオフィスで、テレビを見ていた。 その部屋のソファーにはルアナとアビーも居座り、無言でテレビを見つめている。 画面に映るのはニュース。 三人はニュースを凝視し、街の状況を把握している。 ゼウス達に不信な動きがあった場合、すぐに駆け付ける為である。 「なんもねぇな」 不意にゼルがつぶやく。 ゼルは机に頬杖をつき、虚ろな表情でテレビを見つめている。 「どこか遠くに逃げたのかな?」 ルアナが言った。 「それはないわ。奴らは何か企んでる。ただ自由を欲して脱獄したんじゃないわ」 アビーが答えるように言った。 その時テレビに映っている高層ビルの屋上に、ゼウスがいることに、まだ誰も気づいてはいなかった。
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