始動

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ニュースの記者がビルの下にいる。 ゼウスは笑みを浮かべた。 屋上にいるのはゼウスと体を鎖で巻かれたキャリー、そしてノバ。 キャリーから飛び出ている一本の鎖を手綱のようにして持ち、ノバはキャリーを引っ張って歩かせている。 まるで犬の散歩だ。 キャリーは二足歩行だが・・・・・・ 他のメンバーはそれぞれ、ゼウスに言われた場所に配置されている。 今回も計画の全貌は明かされておらず、ただ言われるがままに脱獄囚達はそこにいる。 はぐれた場合、三日間のサバイバルが待っている。 人混みに溶けこむようにしてビルの下にいるシャンクは楽しみで仕方なかった。 ビルの壁に持たれるようにして煙草を吸い、必死に報道を続ける記者を見つめる。 ゼウスは遥か下にいる一般人を見下ろすと、メガホンを手に取った。 ゼウスがいるビルの横には造りかけの高層ビルがあり、巨大なクレーンや無数の鉄鋼が置いてある。 ゼウスは横目でそれを確認すると、メガホンの出力を最大まで上げた。 そしてそれを口元に近づける。 『平穏な時を過ごす住民の皆さん』 メガホンから出る声は思ったより大きかった。 側にいるノバとキャリーは顔をしかめる。 ビル近くの道路を行き交う人達はゼウスの声に反応し、立ち止まって屋上を見上げる。 『初めまして』 ゼウスはニッコリと微笑みかける。 道にいる人達はざわめき始めた。 「飛び降りか?」と言い騒ぐ者もいる。 何かの取材をしていた記者のカメラは、自然とビルの屋上に立つゼウスに向いていた。 ゼウスは再びメガホンを近づけると、言葉を放つ。 『私はゼウス。ある監獄から脱獄した者です』 それを聞いた人達のざわめきは一気に激しくなった。 中には携帯で写真を撮っている者もいる。 ゼウスはカメラを持つ記者に向けて、大きく口を開いた。 『新たな時代がやってきます。その時代には、旧人類は必要ありません。よって・・・今からあなた方には死んでいただきます』 ゼウスがそう言い放ったその瞬間、クレーンの横に積まれてあった無数の鉄鋼が、下にいる人達に向かって落ちた。
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