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「ついてねぇ・・・」
多くの人々が行き交う町のセンター街で、オルトロスの片割れであるジョンは舌打ち混じりにつぶやいた。
ジョンが抱えている白いカーテンで包んだ大きな筒のような物を見て、街を歩く人々は不思議そうな顔をしている。
「なんであんな場所で事件が起きてんだ・・・」
ジョンはガムを噛みながらため息をつく。
「仕方ない、行くぞ」
マルスが車のドアを開けながら言った。
今、二人がいる場所はゼウスが事件を起こした場所から遠く離れている。
今から車で行っても一時間はかかるだろう。
ジョンは車のトランクに筒を乗せると勢いよくトランクを閉めた。
そして助手席に乗る。
「事件の主犯は脱獄囚ゼウスだ。急ぐぞ」
マルスはそう言うとアクセルを踏み込む。
普段から二人はSCH捜査官専用の車を使っていないので、サイレンを鳴らして現場に急行することはできない。
前に起きた銀行強盗の時も、二人は銀行から離れた位置を捜索しており、現場にはこれなかった。
勘が悪い。
二人はそれどころか、重度の方向音痴でもある。
しかし、車には高性能カーナビが取り付けられているので、二人が道に迷うことはないだろう。
二人の方向音痴ぶりは、徒歩の時に発揮されるのだ。
「つくづく運がねぇ」
ジョンはガムで風船を作りながらつぶやく。
「現場には一時間で着く」
マルスが言葉を返した。
車はカーナビに従い、道路を右折する。
「フン、まぁいいさ」
ジョンは窓を開け、自慢のドレッドヘアーを風になびかせる。
「今度は間に合うハズだ」
「・・・だな」
二人は静かに微笑する。
「脱獄囚とやらに教えてやるか、SCHの怖さってやつをよ」
ジョンは再びガムを膨らませると不気味な笑みを浮かべた。
オルトロスの二人を乗せた車は、激しいエンジン音と共に現場へと向かって行った。
それぞれの思惑を胸に、役者達はひとつの場所に集合していく。
全てはゼウスの計画通りに進んでいるのだった。
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