潜入

23/23
37426人が本棚に入れています
本棚に追加
/702ページ
軍鑑内にて戦闘が開始されていく。 そんな中で、束は甲板に出ていた。 広い甲板には、砲弾の入った木箱や掃除用具などが置かれており、床には無数の血痕が残っている。 ただっ広い甲板の中央に立っている人物に、束はゆっくりと歩み寄る。 真紅の長髪を潮風になびかせ、真紅の瞳は太陽の光によって輝いている。 一連に起こった事件の主犯。 脱獄不可能と言われた監獄を容易く崩壊させ、ゲームと称した暴挙で多くの人を死に追いやった。 ヘルーダの囚人。 アーニー・レイエス。 又の名をゼウス。 真紅の犯罪者という通り名をつけられ、全米指名手配犯の中でも指折りのトップクラス。 そのゼウスが、束の前に立っている。 その表情には、いつものように不気味な笑みが浮かんでいた。 「ようこそ。時代の狭間へ」 ゼウスは束を見つめ、言い放つ。 「・・・ゼウス」 束は立ち止まり、ゼウスを睨みつけた。 今までの戦い。 その決着は、この場でつこうとしている。 二人の約束が今、果たされようとしているのだ。 「やっと、この時が来ましたね。この瞬間を、どれほど待ち望んでいたことか・・・」 ゼウスは、腰にさしているアルミニウムのパイプを手に持ち、その先端を束に向けた。 「回りくどいことしやがってよ。コラ、まず一発殴らせろや」 束は黒い髪を潮風になびかせ、ゼウスに言い放つ。 眼前に広がる海は、二人の戦いを煽るように波立っている。 「フフ・・・漆黒の捜査官、空良束。あなたはやはり面白い人間のようですね」 ゼウスは笑みを浮かべたまま、束を挑発する。 「全てはこの瞬間の為に、私は全ての準備をしてきました。そして、あなたを殺し、私はさらなる高みへと足を運ぶとしましょう」 「・・・言ったろ?」 束の言葉に、ゼウスは目を細める。 「監獄に送り返してやるよ・・・この俺がな」 「楽しみにしてましたよ・・・」 ついに果たされる約束の時。 犯罪者と捜査官。 二人の戦いが始まる。
/702ページ

最初のコメントを投稿しよう!