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束は素早くゼウスに近づき、銃を奪った。
漆黒の光に包まれた右手に握られた銃は、一瞬にしてこの世から消え去る。
「くっ・・・!」
ゼウスはとっさに飛び退き、束に手をかざす。
と、同時に、ゼウスの懐から無数の鎖が束に向かって伸びた。
一体どれほどの鎖を服の中に仕込んでいたのか。
ボート上にいるゼルは顔をしかめたが、束はその場から動かない。
鎖は束に巻き付き、その動きを完璧に封じる。
しかし、束の全身を包む漆黒の光が、巻き付いた鎖を消し去った。
「全てを呑み込み、消し去る漆黒の空間。それを全身に纏ってるのかッ!?」
ゼウスは顔をしかめ、束から距離をとる。
ゼウスの言う通り、束は今まで球体に押し留めていた漆黒の空間を、全身に纏っている。
触れるもの全てを消し去り、あらゆる攻撃が身を守る鎧の役割を果たしている。
それにより、束を攻撃する方法はない。
「こんなことが・・・」
距離をとったゼウスだが、束を倒す術(すべ)がない。
ゼウスの頭脳をフル回転させても、何も浮かばない。
「もう終わりか?」
漆黒の光を全身に纏いながら、束は言い放つ。
挑発的な笑みを浮かべ、束はゆっくりとゼウスに歩み寄る。
「これは予想外ですね・・・」
ゼウスは後退りし、束から逃げるように下がる。
「諦めろ・・・もうお前に勝ち目はねぇ」
束は歩き続け、ゼウスを追い詰める。
やがてゼウスの背後に海が広がり、甲板の端に追い詰められた。
「くっ・・・」
肩越しに後ろを見つめ、ゼウスは顔をしかめた。
「監獄に戻るんだゼウス。お前の計画は終わりだ」
全身を包む漆黒を消し、束は手錠を取り出す。
「私が・・・」
ゼウスはうつ向き、束に向かって一歩踏み出す。
そして・・・・・・
「私が負けるかぁああああああああああ!!!」
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