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そこは街の明かりが届かない暗い裏路地。電柱に付いている外灯は壊れているのか、今にも消えそうに瞬いている。
顔を上げて辺りを見渡しても人影は僕以外、何も見当たらない。昔からこの場所を知っているけれど、ここを通る人なんてほとんど居ない。だから、孤独を、一人でいる事を好んでいた僕はこの裏路地を気に入っていた。
時刻は午前二時。
僕は電柱に背中を預け、膝を抱き抱える様にして座っていた。
****
季節はもうすぐ冬に入る十一月半ば。少しずつ寒くなってくるこの季節、所謂冬は僕が一番好きな時期である。
と言うのも、僕はじめじめと嫌な感じの汗が吹き出る暑い夏よりも、肌寒く身が引き締まる思いをする冬の方が好きなのだ。暑いのより寒い方が良い、と云った簡単な理由もあるけれど、大きな理由は別にある。
それは冬の夜空がとても綺麗に輝いている様に感じるからだ。
夏の夜空は熱さの所為なのか湿度が高い所為なのか分からないけれど、少しばかり霞んでいる様に見える。
それに比べ冬の夜空は、冷たく澄んでいて光が濃く鮮明に映る。だけれど、どこかすぐ消えてしまいそうな儚さを感じるのだ。
その力強く、儚い光がとても好きだった。
視線を空へと向ける。
生憎、今日の空は雲に覆われていた。分厚い雲ではないのか、空を見渡してみれば遠くの方にある雲と雲の隙間から星の光が微かに漏れてはいた。漏れてはいたけれど、明らかな曇り空だった。
誰だってそうだろうけど――もしかすると僕の勝手な思い込みかもしれないが――やはり満天の星空でないと、あまり感慨を得ることは出来ないものだ。さらに言えば僕は曇りなんて云う、中途半端な天気は気に入らない性分なのだ。雨を降らしたいのならば降らせれば良いのに我慢しているような天気は好きではないかった。
ただ灰色に色塗られた空。何をしたいのかも分からず、人の感情をもグレーにする。だから嫌いなんだ。
でも、今はこの天気が気分的にあっている。
少しだけため息をつき、僕は膝に顔をうずめてじっと固まる。立ち上がる気力なんてモノは此処に来た時から存在していなかった。
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