暗闇、慟哭、嘆き

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 耳を澄ましてみると、時折表通りを走っている車の音ぐらいしか聞こえてこない。羽虫が羽ばたいている音も無い。  もうこの時期には虫があまり居ないのだろうか。僕はそんなに虫についての知識がある訳ではないから、この季節に虫がどんな風に生きているなんて事は知りはしない。もしかしたら、羽音が聞こえないだけであって、僕のすぐ近くに居るのかもしれない。それとも地を這っているだけなのかもしれない。  だけど、これだけは断言できる。  きっとどこかで生きているんだろう。虫は案外、生命力が強い生き物なんだ。  ――そう、人間よりも遥かに強く生きている。       ****  しかし、暗く静かになるといろいろと物思いに更ける事が出来るものだ。今だって、普段は考えもしないような虫についてあれやこれやと考え込んでいた。  顔を埋めているから視界は真っ暗だし、物音は殆ど無いと言って良い。そんな寂しい世界に居ると、人は内向的になるのかもしれない。プラスよりはマイナス思考になっていくとは思っていたのだが、こんな風に物思いに更けるとは考えてもみなかった。  いや、本当はどうでも良いような事を考えたいだけなのかもしれない。受け入れたくない現実から目を背けていたいだけ。辛い事実から背を向け逃げ出したいが為にひたすら別の事を思考する。そう。所謂、現実逃避。そんな事をしても無駄なだけなのに。だけど、今だけはあの事だけは絶対に考えたく無かった。あの事は僕の心を根こそぎ抉り取ったのだ。  だから、昔からのお気に入りだったこの場所に来て。考えたく無い事を考え無いようにする為にくだらないモノを思案して。僕はじっと静かにうずくまっているのだ。  なんて、つまらない人間。いや、正確には駄目な人間か。
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