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時はイスティリア暦110年――機械文明が大きく発展し、進化した文明に耐えきれなくなった星は衰退の一途を辿る。澄んだ水や大気は徐々に汚染され、広大な大地は腐敗していった。
世界を統べる政府機関である『ヴァルハラ』は、朽ちていく星から各都市を守るための処置として『シャングリラプロジェクト』と呼ばれる計画を始める。
***
鉄で出来た通路は天井が高く、暗く、微かな冷気が肌を刺す。その通路を必死の形相で走る一人の少女。切れぎれの呼吸に、腰まで伸びた金の髪は左右に激しく揺れ、澄んだ緑の瞳は前を睨むように見据えている。険しい顔付きからは彼女の何かに対する焦りが見え隠れしているようだ。
少女の左手には彼女の身の丈よりも少しばかり短い杖が握られており、先端に付けられた大きな玉は時折淡く緑に光っている。そして右手には青く輝く鍵が、彼女の手の中で小さく輝いていた。
「っはぁ、はっ……」
「エリアそっちは行き止まりだ」
「づっ! はぁ……ちっ」
少女、エリアは後ろから聞こえる野太い男の声に苛立ち、大きく舌打ちをする。前にあるのは通路の出口、光が差す向こうの何が行き止まりなのか、エリアは男の言葉など聞き入れること無く走り続けた。
道は一つ。立ち止まることなど出来ない。今は早く――。
「だから行き止まりだよ」
「あああああっ! くそ! 退けよヴァン!」
大声を上げてエリアは一歩後ろに飛び退いた。男の言葉通り、本当に行き止まりなのだと言わんばかりにエリアの前に突如現れ、立ちはだかるヴァンと呼ばれた男性。ハスキー混じりの女性の様な声からして、どうやら先程の男とは別人のようだ。赤い腰上までの長髪は綺麗に首元で一つに束ねられ、薄暗い通路内でも綺麗に映えている。ヴァンは髪と同じ赤い瞳を三日月の様に薄く細めながら、口元に笑みを浮かべた。
エリアはヴァンを睨み、歯を強く食い縛ると、苛立ちからか杖で地面を強く叩く様に突く。辺りに鉄と鉄を擦り合わせたような音が響き渡った。
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