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 放課後の美術室からは、僅かに光がもれていた。  透に断りを入れず、思いついたままに美術室に向かった南美は、恐る恐る中を覗き込む。 南美が中を見る限り、そこには誰も居らず、何故電気が付いているのだろうと不思議に思い、中に入った。   「待ってたよ。転校生」  驚いた南美は思わず、小さな悲鳴を上げる。 南美を驚かせた人物は、美術室の開き扉の真横にいて、前方だけ見ていた南美からは、死角になる場所にいた。 クーラーが効いているとはいえ、夏であるのに、長袖のシャツを着て、涼しげに佇んでいる。  近い歳であろうその少年の、クセのある細い茶色の髪から見える、穏やかな黒い瞳、柔らかい物腰に、初対面ながら南美は自分の心が安らぐのを感じた。  その少年は南美を優しく見つめながらニコニコ笑っているが、出方を窺っているようにも見える。  何故待っていたのか。 何故転校生が美術室に来ると分かったのか。 色んな疑問が渦を巻いている中、南美は どうして、とだけ言葉を返す。 この言葉が一番しっくりくる気がしたのだ。
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