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来てくれた。
紗弥くんが来てくれた。
その現実がただ嬉しかった。
目の前にいる紗弥くんの顔は信じられないといった様子で…、俺が嬉しさから洩らす言葉やこれからどうするかを提案している間も、ずっと目を見開いて俺を凝視していた。
そして、その大きな瞳から涙が溢れていた。
泣かないで?俺嬉しいのに…
泣かれるのは嫌だよ。
慰めるように紗弥くんの隣に座り、その身体を抱き締める。
俺より冷えきっているのがわかった瞬間、俺は失礼だけどまた嬉しいと思ってしまった。
遅れたこととか、俺のことを何とも思ってないとかそんなのより、今自分の腕の中に紗弥くんが居てくれるのが嬉しい。
嫌がらず、身を委ねてくれているのが俺の胸を熱くさせた。
その後、ふらふらな紗弥くんを支えて休める所を探していると、すぐに思い付いたのが…
「…まぁ、休むだけなら大丈夫だよね」
安くて綺麗で受付のお姉さんが気さくなラブホテル。
前までは頻繁に利用してたけど最近は行ってなかったな…
そう思ってすぐに目的地まで急いだ。
「あ、お姉さーん」
「ん…あぁ、久しぶりのご利用?……大丈夫?その子」
「大丈夫じゃないかもしれないから休ませようと思って」
「ふぅん、はい、○○号室なら空いてるから」
「ありがと~」
そうして着いたラブホの一室。
紗弥くんをソファに座らせるとさっきまでのやり取りを聞いてなかったのか、ここがどこだか聞いてきた。
何でもないようにラブホだと告げ、どうしてここにしたのかをお姉さんの件を言わずに説明する。
が……
やはりどう説明してもダメみたいだ。ここはただのホテルの様に休む場所ではなく“そういうこと”をする場所。
それがどうしても紗弥くんを意識させてしまうらしい。
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