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俺を抱き締めたまま、緒方は俺を好きになった経緯を話し始める。
でもそんなことに興味なんてない俺は、抵抗する気力も失せて話が終わるのを待っていた。
その現場を、あいつに見られているとも知らずに…
「…本城?」
「…何だよ」
話し終えたのか、緒方が俺の名前を呼ぶ。
ゆっくりとそちらを向くと、緒方が顔を近付けてきた。
「っ…やめろ…」
そんなことしたくない…
お前となんて……
嫌悪感のある表情で相手を睨み付ける。そんな俺に対して、緒方は笑顔を見せた。
「そっか…いきなりは嫌だよね…俺はあの先輩みたいに無理矢理なんてしないから」
そう言って、やっと俺の身体を離してくれた。
緒方はまたね、と俺の耳元で囁くように言うとその場を去って行った。
「…何なんだよ…もう…」
脱力してそのまま床に座り込む。
抱き締められた感触を消すように自分の腕を擦り、囁かれた時に感じた吐息の感覚を消すように耳に爪を立てた。
またね、て…またこういうことをされるのか…?
考えただけで身体が震える。
まだ感覚が消えない…
誰か消して…誰か…
「紗弥くん」
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