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そんな僕の考えを読んだのか、不意に恭也が仏頂面で呟く。
「なに時化た面してんだ阿呆が。今の獲物はあくまで朧影秋水、唯一人。他に目移りしてる暇なんざありゃしねぇんだよ」
ふん、と鼻を鳴らしてから恭也は何も言わずにリビングの方へと歩いていった。その後姿を見て、なんとなく感動。
成長したな、恭也。
さてさて、のんびりはしていられない。僕は凪さんに見送られて玄関から外に出る。
相変わらずの秋模様。気温は日々低くなるばかりだ。
ここまでくると本格的に冬の到来を感じる。と言うかもうほとんど冬なんだけれど。
冷えた外気に身を震わせて、マフラーで口許を覆う。意外にも人気の少ない通学路を歩きながら、ふと興味のある光景が目に映った。
正直、とてもベタな光景だった。朔夜ならなにかの漫画に例えて語りそうなくらいベタすぎる光景だった。
つまるとこと、木に登ったまま下りてこれなくなった子猫を女の子が助けようとしている、そんな日常的なくせに今更非日常とも言える光景。
本当にベタなシチュエーションである。
猫の種類にはあまり詳しくないし、雑種があるのかもよくわからないが、白と黒の斑模様の子猫。中々丈夫な枝先にしがみついている。
地面からの高さは三メートルぐらいか。それぐらいの高さなら落ちても平気だろう、と子猫の臆病さに呆れて溜め息をつく。
そのすぐ下には、身長の高い女の子。制服の上からコートを羽織って、ニット帽を被っていた。
ニット帽からのぞく短めの髪は日の光に当たってか金色に輝いて見える。
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