序章「ゾロ式」

2/3
321人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
それはある日の午後の出来事である。 「樹!一緒に帰ろ♪♪」 「はいはい分かった、分かったからそんなに引っ張るなって!」 悠岳高校3年生の、与那嶺樹と幼馴染みの吉原明日香はこの日も仲良く共に下校していた。 「樹は成績もあんまり良くないのにゲームばっかりして…どうなっても知らないよ!」 ああ…耳が痛い。 言うまでも無く樹と明日香は受験生。 無難に何でもこなす明日香とは対照的と言えばまさにその通りで、元々樹はあまり勉強の出来るタイプでは無く、それが彼の危機感やヤル気の無さに直結してしまっている。 特に最近では専ら世話好き、はたまたお節介ともいえるのだろうか、樹は明日香に毎日怒られてしまっている。 「まぁまぁそう言うなよ。俺だってやれば出来るんだからさ」 「あんたは本当に口だけ、まともに勉強した事なんかないクセに」 どうなっても、知らないからね。 こうまで言われてしまってはぐうの音も出やしない。 樹にはいつもやっているように、はい、はいと生返事を繰り返すのがやっとだ。 まさに・・凸凹コンビというか、こう見えてこの二人は、クラスでは結構仲の良い事で評判だったりするので、互いに憎まれ口を叩き合ってはいても、端から見れば楽しそうな光景に映っている。 「な~んか喉渇いたな。そこの自販機でジュースでも買うか…」 「も~・・あんた、人の話全然聞いてないでしょ?」 まだ初夏に差し掛かっていないとはいえ、やはり日本の気候はジメジメと暑く感じる。 樹は喉が渇いたので歩きながら鞄から財布を取り出し、ジュース自販機の前で立ち止まった。 「明日香の説教は長いからな、10分も聞いてられないよ。えーっと、120円っと・・あっ」 不意にチャリ~ンという音。 それが聴こえたと同時に、無情にも樹の手のひらから溢れ落ちた小銭が自販機の下に転がり込んでいった。 「あー!俺の十円が!」 「全く、たかが十円ぐらいで大袈裟ねぇ。貸してあげようか?」 「十円を馬鹿にする奴は十円に泣くんだぜ?」 「あっそ。まったくバカなんだから」 もはや突っ込むのにも疲れたのか、如何にも、馬鹿馬鹿しいなといった様子で明日香があきれ果てている。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!