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リビングに着くとお母さんはキッチンで夕食の準備をしており、いい匂いがリビングを満たしていた。
「手伝うよ」
お母さんにそう言うと食器棚からお皿を取り出し、テーブルの上に並べていく。そして一通り並べ終わったあと、お母さんが不意に話をし始めた。
「名雪、祐一さんのこと覚えてる?」
「えっ?」
祐一という言葉に一瞬動きが止まる私。
「ほら、七年くらい前まで一緒に遊んでた、従兄の」
「う、うん。覚えてるよ」
まさか本当に祐一のことだなんて、と私は思った。そして嫌な予感がしたのでお母さんに聞いてみる。
「もしかして、また遊びに来るとか?」
もしそうだとしたらどうしよう、と思った。どんな風に再会すればいいんだろう? 絶対に気まずいよ……。
しかしお母さんは笑顔で私の言葉にちょっと違うわよ、と言ってくる。
「前から決まりつつあったことなんだけどね、祐一さんのお宅、今度海外出張するらしいのよ」
キッチンから出来た料理を運びつつ、話を続けるお母さん。いつもなら料理を運ぶのは私の仕事なんだけど、このときだけは運べなかった。
「それで、祐一さんだけを日本に置いていくことにしたんですって」
「そ、そうなんだ……」
「だけど一人じゃ危ないし、物騒だからってことで私の家で預かることにしたの」
「……」
預かる……? 私はお母さんの言っている意味がわからなくなり、つい思ったことを口に出してしまう。
「預かるって、どういう意味?」
お母さんは不思議そうな顔をして私の言葉に答えてくれた。
「しばらく一緒に暮らすってことよ。ちょうど部屋は余ってるし、この家も私と名雪だけじゃやっぱり大きすぎるじゃない?」
この後もお母さんは料理を運びながら嬉しそうに祐一のことを話していた。私はというと、お母さんの言葉にただ相打ちを入れながら笑うしか出来なかった。
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