記憶

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「……得体の知れない、不気味なやつだな」 「その通りじゃ!いつもいつも自分は全てを知っています。みたいにニコニコ笑いおって! あぁぁああっあの笑顔、踏み躙ってやりたいわっ」 おお!珍しくチェシャ猫と女王様の意見が合った! ……というか、ルイスってやっぱり嫌われているのかなぁ…? 確かに変わった人だけど、そこまで変な様には見えないのに…… 「…うーん、やっぱり管理者は嫌われ役なのかねー?」 女王様達を眺めながら能天気に独り言なのか、誰かに問い掛けているのかよくわからないことを言う夫人。 ……夫人はそこまで嫌ってない、のかな…。 「夫人はルイスのこと、嫌いじゃないんですか?」 「え?嫌いよ」 即答。 笑顔で言われるといっそ清々しい。 「女王も言ってたけど、自分何でも知ってますみたいなのがどーも気に入らないのよねぇ。 ま、そんなの私が勝手に彼を悪く捉えてるだけで、向こうは何も悪くないのよ? ……皆そうなんじゃないかしら。管理者は何も悪くないのよ。でも住人が一方的に彼を気に入らないっていうだけ。可哀相にねー」 一気に早口で喋り、最後は笑顔。……なんか悪口?言ってるようには見えないのが不思議です。 「……何でも知ってて、何が悪いんですか?」 「だから、悪くないのよ。 ……ただ、イライラするの。 私は本当に何も知らない無知な人間。どうすればいいのかなんて全然分からなくて、答えを探しても、結局最善の策なんて見つからないまま、いつまでも答えを探して彷徨って……。 でも、彼は違う。いつも先のことまでお見通しみたいで、無様に迷うことなくさらっと答えを見つけだす。 ……あはは、ただの妬みね。 でもね、何も知らない私達からすると、何でも知ってる彼が羨ましいのと同時に妬ましいのよ」 いつも早口な夫人が、珍しく最後の方をゆっくり、そして少し悔しそうに話してくれた。 どんなにいい人だって、やっぱりどこかに醜い感情があるわけで。 とても理不尽かもしれないけど、世の中にはそういうマイナスな感情が溢れてる。 ……勝手にこの国の住人さん達は私の世界とは違う、変わった人達だって思ってたけど(いや、その事実は変わらないけど) 皆同じだった。 この国の人達は少し変わってるけど、皆優しくていい人って思ってた。 でもそんな皆にもやっぱり良くない感情もあるわけで…… 人間らしいなって、思った。
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