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「……嫌な奴らって思ったでしょ?」
「あ、はい。ちょっと」
「……アリスって何気直球よね」
苦笑する夫人がどこか悲しそうに見えた。
「……でも、仕方ないですよ。私だってそういうマイナスで否定的な考えを持つことだってありますし。
……人間って、そういうものなんですよね」
醜くて、嫌な所がいっぱい。
でも、それと同じくらい良い所もいっぱいあって、補い合いながら生きていく。
完璧な人間なんて、いないんだから。
「……大衆が知っていて自分だけが知らないのと、大衆が知らなくて自分だけが知っている
一体どちらが良いんだろうね?」
暫く黙って話を聞いていた公爵さんが静かに言った。
「……自分だけ知らないのって、仲間外れみたいで嫌じゃないですか?」
「そうよねぇ。
逆に自分だけ知ってることがあったら得した気持ちになりそうよ!優越感に浸れるし……まぁあたしだったら自分だけなんて言わないで片っ端から教えまくるけどね!」
あー……夫人、お喋りですもんね。
ご近所に瞬く間に広まる噂話の発信源って、こういう人なんだろうなぁ……。
私と夫人で思ったことをそのまま話すと、公爵さんは軽く頷いた。
「大衆から見れば、1人だけ知っているのは羨ましくみえるだろう。
……でも、もしその知っていることの内容が酷く悲しいものだったら?」
そこで私は思考がピタッと止まった。
夫人もそうなんだろう。私達は顔を見合せて何とも言えない表情を見せた。
「面白かったり為になったりするようなことを自分だけが知っていたら、優越感に浸れるかもしれない。
……でも、それが悲しいことならば、知っている1人で背負わなければいけない。
知らなかった頃には戻れないんだから」
「………………」
何も知らない皆は楽しそうに笑ってる。
でも辛いことを知っている自分だけは、苦しくて、何も知らない皆みたいには笑えない。
……それはそれで、辛いのかもしれない。
公爵さんは難しそうな顔をした夫人の背中を軽く叩き、ゆっくり言った。
「まぁつまり……知ることが幸せに繋がるとは限らないってことだよ」
少しだけ笑顔を見せた公爵さんが、やっぱり大人っぽく見えた。
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