記憶

27/29
前へ
/462ページ
次へ
「君はこの城で待っているといい。私の屋敷にある、占いに必要な物を持ってこさせよう。 それを持って、占い師の元を訪ねてみなさい。何か良い手立てがわかるかもしれない。 知らないなら、知ろうとすればいいんだからね」 公爵さんは珍しく、ちょっと子どもっぽい笑顔を見せた。 年相応。 「……え、いや、でも……わざわざ悪いですし…」 「気にしなくていい。私が提案したことだからね。 さぁ、帰るぞ」 私にニコッと笑ってから夫人を呼び、女王様に一礼すると、扉に向かって歩き始めた。 ……いいのかなぁ、頼みっぱなしで。 私のことなのに………。 《思い出したいなら、この国ともっと関わるといい》 ふと、時計さんの言葉を思い出した。 関わる……受け身じゃ駄目ってことだよね。 思い出したいなら自分から行け、と。 ……でも公爵さんの言葉も気になる。 『知ることが幸せに繋がるとは限らない』 この国は優しいし、楽しい。 だから思い出すことだってきっと素敵な思い出のはず。 ……はずだけど、世の中そう上手くはいかないということもよくわかっている。 思い出せないのには、何か理由があるのかもしれない……。………………でも 「………こっ…公爵さんっ!」 大声で公爵さんを呼び止める。 大広間に私の声が響いてエコーが……。 「………アリス…どうしたんだい?」 振り返ってちょっと驚いた表情を浮かべる公爵さんに、私は思い切って言った。 「……あのっ…私も行きます。 行かせてください!」 もう目を逸らさないって決めた。 だったら最後の最後まで向き合おう。 この国も私にとっては大事な世界。 だから知りたい、思い出したい。 そして国の皆で 前はあんなことあったねー、なんて笑い合えたら きっと楽しいよね。
/462ページ

最初のコメントを投稿しよう!

628人が本棚に入れています
本棚に追加