記憶

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では行くか、と大きな扉を開ける公爵さん。そのすぐ後に夫人が続く。 こうして見ると親子みたいだなぁ…… 「……あの、夫人」 扉を出ようとする夫人に駆け寄って声を掛けた。 夫人は笑顔で振り向き、首をかしげる。 「……あの、さっきルイスは何でも知ってるみたいだって言ってましたけど…… 知っていることと同じくらい……いや、それ以上知らないことだって、たくさんあると思います。 夫人は知っていてルイスが知らないことも」 夫人の笑顔は消え、真顔で私の話を聞いている。 お節介かもしれないけど……でも、言っておきたい。 言わずに後悔するのは嫌だから。 「それに、ルイスにも良い所はあります。気に入らない所だけ見て嫌いになるんじゃなくて、良い所も見つけてみませんか? 夫人にだって、良い所いっぱいあると思います。 さっきは夫人のマイナス面を見たから、私、次は良い所をたくさん知りたいです!」 夫人のさっきの悲しそうな笑顔が気になっていた。 ちょっと傷つけちゃったかなって思ったから、私の気持ちをちゃんと伝えておこう。 真顔だった夫人は、優しい笑顔を見せてくれた。 「……ありがとうね、アリス」 ……伝わった、のかな? 「…………アリスも」 先に行ってしまった公爵さんを追い掛けて、私も慌てて扉を出ようとすると チェシャ猫が後ろから中途半端に言葉を切って、言った。 振り返ると、チェシャ猫がこちらに向かってゆっくり歩いてくるところだった。 「……アリスにも、良い所は、ある」 途切れ途切れで不器用な言葉。 ………チェシャ猫らしい…… 私の頬が自然と緩むのがわかった。 「………ありがと。 …………………例えば?」 「……食べ物を無駄にしない所?」 台無しだよ。
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