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夫人が扉を開けた瞬間、奥から何かが飛んできて私の頬を掠める。
頬を触ると赤い液体が手にねっとりと付いた。
…………………血?
何事かと思い、通り過ぎていった飛行物を見ると、銀色に光る、ナイフだった。
私の血で少しだけ赤く染まっている。
私が呆然と立ち尽くしていると、キッチンの奥から何かが割れる音やら折れる音やら、ものすごい破壊音が聞こえてきた。
あまりに凄い音に驚きながらも部屋の中を覗くとそこは
既に火の海だった……。
なんてことは全く無く
扉の向こうは普通の厨房があるだけだった。
普通と言っても庶民の私からすればかなり広く、立派な物なのだけれど。
大きな調理台がいくつか並び、磨き上げられたシンクが部屋の明かりに反射して輝いている。
奥には大きな冷蔵庫が2つ。
大きな食器棚にはかなりの数の食器類が並んでいる。
……しかし、静かだ。
もっとこう……水道の音とか包丁がまな板に当たる音とか食器が擦れる音とかで賑やかなイメージだったんだけど……
物音1つしない。
そしてたくさんのシェフの方々が忙しく動き回っているのかと思いきや
中には窓辺に不自然に置かれた椅子に座った女性が、1人。
……ここまで想像を裏切られると、いっそ清々しいです。
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