キッチンには気を付けろ!

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「あ、公爵様も……あと、そちらは?」 窓辺の女性が尋ねてくる。 「彼がチェシャ猫、彼女がアリスだ」 公爵さんが私達を紹介すると、女性はふんわりと笑った。 「あぁ…貴女が噂に名高い、アリス様ですかぁ……。 お会いできて光栄でございます。私は……そうですねぇ…… 料理女、とでも呼んでください」 ゆったり喋る彼女は見るからにおおらか。 やや間延びした喋り方がのんびりとした印象を強くする。 ……にしても、料理女って… 「……あの、お名前は…?」 料理女って本名じゃないよね? 「料理女と…お呼びくださぁい」 ふわりと笑う料理女さんに私もつられてふわり…… じゃなくて! 「いやっ……でも、呼びづらいですし!」 「そぅですかぁ? ……では、女で結構ですよ」 いやいやいや、女って私と夫人も女だからわかりづらいって! 「じゃ、じゃあ私がハイセンスなあだ名を」 「止めとけ、酷い」 酷いのは君ね。 チェシャ猫を睨み付けると料理女さんはまたやわらかく笑う。 ……まるで春の日溜まりのようにのほほんとした人だ。癒し系。 「……ふふふっ。アリス様はお話に聞いていた通り、お優しい方ですねぇ。 でも、いぃんですよ。私みたぃな使用人に気を遣っていただかなくても……」 でも、と言い掛けた所で公爵さんが遮った。 「いいんだよ。私達も彼女のことは料理女と呼んでいる。 何も気にすることはない」 その言葉に夫人はうんうんと頷く。チェシャ猫は興味無し。 ……どうして名前で呼ばないんだろう?
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