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ここで、今まではあまり気にしていなかったことが気になり始めた。
そういえば私、公爵さんと夫人の名前も知らないな……。
“公爵”も“夫人”も立場を表す名称であって、本当の名前ではないはず。
公爵さん程の高貴な人なら、相手の名を知って自分は名乗らないなんてしないはず。
名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろうし。
私は公爵さんと料理女さんが話している間に、さり気なく夫人に尋ねた。
「……そういえば、夫人のお名前って何なんですか?」
すると夫人はちょっと驚いたような表情をしてから、すぐにいつもみたいに笑った。
「あははっ!何?いきなりどうしたの?」
「あ、いや別に……ちょっと気になったんで」
「私のことは今まで通り夫人って呼んでくれて結構だからね!
皆そう呼ぶし。あ、なんならアリスがハイセンスなあだ名をつけてくれても構わないわよ?」
……やっぱりさらりと躱されてしまった。
そういえば今まで会った人達の中でも、ちゃんとした名前を知らない人がいる。
女王様に門番さん、エースさんクイーンさんジャックさんだって位を表す名称なわけだし、ブラウクさんは私が勝手につけた名前。
……立場が上の人は名乗らない決まりがあるのかな?
いや、でもそうしたら料理女さんや門番さんは使用人だから、そこまで上の人じゃない。
だとしたら、なんで……
「…………アリス?」
「……え、あ、はい?何ですか!?」
私の思考は公爵さんによって遮られた。
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