第3章

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夜七時半を回った。 定期テスト前、クラブ活動の時間は夕方五時までと決められている。 既にこの時間では、校内に残っている生徒も教師もいないはずだ。 唯一残っているのは、警備会社の守衛くらいだが。 「安心してくださいな。今日は見回りを控えるようにと事前に言っておきましたから」 何が安心なのか解らないが、玲菜が社会的な立場を利用して、ささやかなお願いをしたようだ。 とりあえず、メルヘン部のメンバーは校舎の陰に潜んで、校庭の隅にひっそりと立つ銅像を監視していた。 「まさか、好きでもないお侍さんのストーカーをする羽目になるなんて」 「それにしても動かないですわね。つまらないですわ」 かれこれ二時間半になる。 ワガママな玲菜にしては、随分と我慢した方だ。 「ただの噂かもだからね」 「もし、このまま動かないなら、明日の昼に撤去してやりますわ」 「撤去? なんで?」 「立っているだけの銅像なんて何の価値もありませんもの」 銅像の価値をどこに見出そうとしているのだろう。 「飲み物買ってきました」 コンビニの袋を提げて愛流が戻ってきた。 「どうです、どうです?」 目をキラキラさせて尋ねる。 「全然なにもないよ。あ、ありがと」 頼んでおいたスポーツドリンクのペットボトルを受け取りながら、ひかるが状況を簡潔に伝える。 「本当につまらないですわ」 「でも張り込みみたいで楽しいじゃないですか」 持ち前のプラス思考を発揮しながら、玲菜に紅茶の缶を手渡した。 「ご苦労でしたわね。ん、ちょっと愛流、これはどういうことですの?」 「ほえ? どうかしました?」 お得なファミリーサイズのコーラーを開けようとしていた手を止めた。 「これはアイスじゃないですの。わたくしはホットと言ったでしょう?」 日が暮れてかなり経つ。 周囲の温度は涼しいというよりも、寒いという感覚に近い。 「あ、ごめんなさい。ついうっかり」 「ついうっかりではないでしょう。まったく、買い物も満足にできないなんて無能にもほどがありますわ」 「玲菜ちゃん、言い過ぎだよ」 ひかるの指摘に慌てて口をつぐむが、時既に遅し。 視線を落とした愛流の瞳には、溢れそうなくらい涙が溜まっていた。  
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