第3章

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「ごめんなさい。私、本当に何もできなくて」   湿った声。 それでも、すぐに顔を上げ、笑顔を作る。   「新しいのを買ってきます」 「お待ちなさい」   駆け出そうとする愛流を止めた。 その声に恐る恐る振り返る。   ぷしゅっとプルトップが音を立てた。 そのまま腰に手を当てた不動の構えで、中身を一気に飲み干す。   「ふぅ」 空っぽになった缶を口から離すと、小さく息をついた。   「あの、あの」 「気が変わってアイスティが飲みたいと思ったところでしたの。だから丁度良かったですわ」   状況に追いつけず、反応できない愛流からぷいっと視線を逸らし、 「さっきはちょっと言葉が過ぎましたわ。その、だから、なんというか、えっと、その」 もごもごと言葉を揺らす。   「素直に一言、ごめんなさいで済むのに」 ひかるが端的に代弁した。   「ひかる!」 「あはは。だから、愛流ちゃんも許してあげてね」 「はい。もちろんですよ。そもそも私が間違ったのが悪かったんですから。でも、玲菜さんって意外と優しい部分があるんですね」 「玲菜ちゃんは素直じゃないだけで、優しくて良い子なんだよ。すっごく意外かも知れないけどさ。ね、玲菜ちゃん」 「べ、別にわたくしは……」   と、そこで疑問符を浮かべた。   「気のせいか意外という部分を随分と強調された気がしますわ」 「そ、それは気のせいなんじゃないかな」 「そ、そうですよ。融通の利かないワガママお嬢様だなんて、私達思ってませんから」 「ちょっと、それはどういう意味ですの。大体ですわね……」   そこで言葉を止めた。 その目が大きく見開かれ、口がゆっくりと開いていく。 玲菜にしては珍しい表情。 効果音を付けるならポカーンだ。   「ん? どうしたの?」 異変に気付いたひかるが、玲菜の視線を追って振り返る。 そこで動きが止まった。 その幼さの残る瞳を丸くして、口を無意識に開ける。玲菜とまったく同じ、効果音的にはポカーンな顔。  
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