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「やっぱり、ボクがいくよ。凶悪犯って訳じゃなさそうだし、案外話し合いでなんとかなりそうな気もするし」
「では、わたくしも」
「一人で大丈夫だから。玲菜ちゃんは愛流ちゃんを手伝ってあげて。もし追いかけられたらって考えると、準備が早く済む方が嬉しいし」
「むう、解りましたわ」
「あの、ひかるさん、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「ひかる、もしものことがあったら、わたくしは絶対許しませんわよ。いいですわね」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、準備よろしくね」
二人が校舎の中に消えて行くのを見送ると、無線機のイヤホンを耳に入れ、マイクを襟元に付けた。
これは愛流から預かっている未来製だ。
「よし、行こう」
足音を立てないよう、慎重に校舎裏に進む。
目標は運動部の部室棟。
身体を低くして、入り口からそっと中を覗き混む。
腰が砕けそうになった。
銅像はすぐ近く、ある部室の前でしゃがんでいた。
どこから取り出したのか、数本の針金を鍵穴に突っ込んでいる。
絶賛ピッキング中の模様。
静かに観察する。
まず、部室のドアについているプレートを確認。
キックベース部だった。
また随分とマイナーなクラブだ。
銅像は相変わらず爽やかな笑みを浮かべながら、針金を少しずつ動かしている。
かなり手馴れている様子だ。
「なんだかなぁ」
銅像が動くだけでも怪現象だが、それが部室にピッキングで侵入するなんて。
しかもその状況を冷静に受け止めている自分がいるなんて。
色んな意味で溜息が出る。
とりあえずどうするか。
と一瞬迷ったが、最もシンプルな方法を選択した。
つまり、
「ちょっと、そこの、えっと、お侍さん」
中に入り、声を掛ける。
銅像の肩が大きく跳ねた。
ゆっくりとひかるの方に顔を向ける。
目が合った。
状況に不似合い過ぎる爽やかな笑顔が非常に不気味だ。
しばしの間を置いて、銅像が立ち上がった。
斜め四十五度を見上げた姿勢でピタリと静止する。
校庭の隅にある時のいつものポーズだ。
「やりにくいなぁ」
ひかるが小さく愚痴る。
これで誤魔化しているつもりなんだろうか。
ぶっちゃけリアクションに困る。
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