第4章

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糸口が掴めないまま、数分が経過した。   「あの、あなた、未来人ですよね」   びくん。 さっきの倍は肩が跳ねた。   「しかも非合法トラベラーですよね」 びくん。 更に二倍。器用な銅像だ。   「あの、どう言えばいいのか解らないんですけど」 「時間安定管理室の捜査官か?」   安っぽい合成音で尋ねてきた。   「まあ、その協力者みたいな感じです。あのですね」 「やはり追ってきたか。そう! 察しの通り、我こそが時空を股に駆ける大盗賊! その名も!」 「ちょっと待ってください」 ナイスタイミングで割り込んでしまった。 微妙な沈黙になってしまう。   お侍様が凄い非難のこもった目で睨んでいる気がする。 もっとも表情は相変わらずの笑顔だが。   「あの、ごめんなさい。続けてください」 「まったく、近頃のガキは礼節をわきまえておらんな」   ピッキングで侵入する銅像が、礼節について語れるのだろうか。   「時空を駆ける大盗賊! グールンベルト十三世とは我のことだ!」 ぐっと胸を張って、力強く言い放った。   「あのね、グールンベルトさん、非合法なタイムトラベルは……」 「ちょっと待てぇいぃぃ!」 「今度は何ですか?」 「ちょっとはリアクションしろよ! このままだと我がバカみたいじゃないか!」 「そんなこと言われても」 「まあいい。丁度、確認したいことがあったのだ。この学校には巨大な宝石が隠されていると聞いたのだが。どこにあるか解るかね?」 「はあ、宝石ですか」   少なくとも運動部の部室なんかにはないだろう。   「どうやら知らぬようだな。それなら良い。我も忙しい身でな、では失礼」 「ダメですよ。非合法なタイムトラベルは禁止されているんでしょう」 横をすり抜けて去ろうとする銅像の前に、ひかるが両手を広げて立ちはだかる。   「くっ、誤魔化しきれなかったか。えぇい、油断のならぬ奴」 「見つかってしまったんですから、ここは大人しくですね」 「よし、これで手を打たぬか」   銅像が銀色のコインを見せた。 日本政府発行の五百円硬貨だ。  
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