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「ひょっとして、買収しようとしてます?」
有り得ないと思いつつも、尋ねてみた。
「大盗賊である我が、そんな下世話な真似をするか。ただ交渉を優位に、そして円滑に運ぶ為に現金をちらつかせているだけだ」
「それを買収って言うんですよ」
「えぇい、この時代の言葉は解りにくい」
「っていうか、お金を受け取っても見逃せませんよ」
「我も大人だ。君の言いたい事は十分に解っているつもりだ。よし、もう一枚付けようではないか」
「あのね。怒りますよ。とりあえず、未来に帰ってください」
「なるほど、君の主張は理解できた」
「解ってくれました?」
「ふむ、どうやら交渉は決裂だな。仕方ない。不本意だが、君を排除するしかないようだ」
「排除って?」
嫌な予感がする。
でも自称とは言え、大盗賊がそんな短絡的な真似をするだろうか。
「殺しはしない。ニ、三年ベットから出れないようにするだけだ」
するんですね。
「ちょっと」
「問答無用!」
手にしていた五百円硬貨を投げつけてきた。
ひかるが咄嗟に身体を捻ってそれを避ける。
廊下の壁にコインが深々と突き刺さった。
部室棟はコンクリート製。
その力は凄まじい。
「これはちょっとまずいかも」
踵を返して、逃げ出す。
「待てぇい!」
銅像が迫ってきた。
とりあえず、校舎の方に。
できるだけ急いで。
と、振り向いて間合いを確認したひかるは、信じられいない光景に目を丸くした。
なんと、お侍様はひかるそっちのけで、壁にめり込んだ五百円硬貨を引き抜こうとしているではないか。
「そこを動くなよ! お金を回収したらお前を……って、こら! だから動くな! 逃げるな! こら! 卑怯者!」
流石にそれを待っているほどお人好しじゃない。
急いで距離を開ける。
「とりあえず、準備ができきるまで引き付けておかないと」
そこでお侍様が駆けてきた。
理想的な短距離走者のフォームで、しっかりと力強い走りだ。
しかも想像より遥かに速い。
付かず離れず微妙な距離を維持して。
なんて言ってる余裕はない。
全力で逃げても、追いつかれてしまいそうだ。
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