第4章

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「ひょっとして、買収しようとしてます?」   有り得ないと思いつつも、尋ねてみた。   「大盗賊である我が、そんな下世話な真似をするか。ただ交渉を優位に、そして円滑に運ぶ為に現金をちらつかせているだけだ」 「それを買収って言うんですよ」 「えぇい、この時代の言葉は解りにくい」 「っていうか、お金を受け取っても見逃せませんよ」 「我も大人だ。君の言いたい事は十分に解っているつもりだ。よし、もう一枚付けようではないか」 「あのね。怒りますよ。とりあえず、未来に帰ってください」 「なるほど、君の主張は理解できた」 「解ってくれました?」 「ふむ、どうやら交渉は決裂だな。仕方ない。不本意だが、君を排除するしかないようだ」 「排除って?」   嫌な予感がする。 でも自称とは言え、大盗賊がそんな短絡的な真似をするだろうか。   「殺しはしない。ニ、三年ベットから出れないようにするだけだ」   するんですね。   「ちょっと」 「問答無用!」   手にしていた五百円硬貨を投げつけてきた。   ひかるが咄嗟に身体を捻ってそれを避ける。   廊下の壁にコインが深々と突き刺さった。 部室棟はコンクリート製。 その力は凄まじい。   「これはちょっとまずいかも」   踵を返して、逃げ出す。   「待てぇい!」   銅像が迫ってきた。 とりあえず、校舎の方に。 できるだけ急いで。   と、振り向いて間合いを確認したひかるは、信じられいない光景に目を丸くした。   なんと、お侍様はひかるそっちのけで、壁にめり込んだ五百円硬貨を引き抜こうとしているではないか。   「そこを動くなよ! お金を回収したらお前を……って、こら! だから動くな! 逃げるな! こら! 卑怯者!」   流石にそれを待っているほどお人好しじゃない。 急いで距離を開ける。   「とりあえず、準備ができきるまで引き付けておかないと」   そこでお侍様が駆けてきた。 理想的な短距離走者のフォームで、しっかりと力強い走りだ。 しかも想像より遥かに速い。   付かず離れず微妙な距離を維持して。 なんて言ってる余裕はない。 全力で逃げても、追いつかれてしまいそうだ。  
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