第1章

3/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「えっと、今からですね」 「ひかる! 無事なんでしょうね!」 高圧的な声が、前の声を押し退けた。   「玲菜さん、今、私が話してるんですから」 「うるさいわね! ひかる、無事なんでしょうね!」 「ボクは大丈夫だよ。まだ余裕があるから」   乱れた呼吸の合間に、襟元のマイクで答えを返した。   「良かったですわ」 大きく吐かれた息が、その心配を表わしていた。   「準備が整いましたわ。早くこちらにいらっしゃい」 「そんな説明だと、場所が解らないじゃないですか」 「わたくしとひかるは以心伝心。話さなくても伝わる関係ですわ」 御無体な主張に、ひかるが苦笑する。   「この時代の人間は、みんなそうなんですか?」 「違います。これは特別な人間のみに許される特別な……」 「愛流ちゃん、どこに向ったらいい?」   しばしの間があった。   「……伝わってませんよ」 「どういうことですの! ひかる!」 「どういうことって言われても」 そんな無茶振りされても、というのが正直なところだ。   「わたくし達の友情はそんな薄い物ではないはずです! ひかる、聞いてるの?……もがが」 「えっと、北校舎の屋上に向ってください。一番、西の非常階段からです」 「解ったよ。ありがと」   んーんーと玲菜の呻く声から察するに、愛流が口を塞いでいるのだろう。なかなか賢明な行動だ。   校舎を出た。私立白桃学院はグラウンドを囲む形で東西南北に校舎が建ち、その間は数メートルの渡り廊下で結ばれている。 ここは、東校舎。 北校舎はすぐ向こう。 しかし、その奥の階段となると、ゴールまではまだまだ距離がある。   振り向く。 白桃院なにがし殿は更に一メートルほど近づいていた。   「大丈夫。ボクは一人じゃないんだから」   口に出すと、疲れていた身体に少し元気が戻った。 まだ走れる。 ペースを上げて、一気に北校舎に飛び込んだ。  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!