第2章

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校庭の隅に立つ一体の銅像。 学院の母体設立に尽力したと言われる江戸時代後期の学者の像。 丁髷頭に二本差しという典型的なお侍の格好で、わざとらしい笑みを浮かべて、斜め四十五度を見上げている。 「へえ、この時代の銅像って夜に動くんですね」 「いやいや、動かないから怪現象なんだよ」 「今まではただの安っぽい怪談話でしたが、目撃者が守衛となると俄然信憑性が出てきましたわね」 「それは、どうかな。見間違いってこともあるしさ」 「でも、その銅像さんは、そんな深夜に何をしてるんでしょうね」 「はっ! ひょっとして!」 玲菜が椅子を蹴った。 「深夜に動く銅像。夜に部室に忍び込む謎の変質者」 「あの、玲菜ちゃん?」 「深夜、人気の消えた学院内、ひっそりと動き出す呪われた像!」 「いやいや、呪われてないし」 「その向う先は! 運動部の部室!」 「そんな無茶苦茶だよ。ね、ちょっと落ち着こ」 「間違いありません! 一見、関係ない二つの点が、今繋がりました! はっきりとした一本の線に!」 ずばりと玲菜が言い切った。 その確信に満ちた表情は、ミステリィに登場する名探偵を思わせる。 玲菜にどんな線が見えてるのか解らないが、それはバカには見えない豪華な服の類に間違いない。 「ちょっと、玲菜ちゃんってば。ね、愛流ちゃんも何か言ってあげてよ」 傍らで黙り込んでいる友人に、助力を求めるが。 「そうだったんですね! 私には想像すらできない事実でした!」 ひかるの希望を断ち切るように、愛流が勢い良く立ち上がった。 そのキラキラした瞳を見れば、玲菜の発言を完全に信じてるのが解る。 「よし! この学院の風紀を乱す悪魔の像を退治しますわよ!」 「はい! 頑張りましょう!」 「さっそく今夜から張り込んで、現行犯で叩き潰すのです!」 「はい! 叩き潰しましょう!」 二人のテンションは最高潮。 もはや常識の追随なんて届かないのだろう。 「ちょっと二人とも」 「ひかる。もちろん、貴方もですわよ」 「え、ボクも?」 「大丈夫ですよ! ひかるさん!」 一縷の望みを込めて視線を向けるひかるに、愛流がぐっと親指を立てる。 「今日のアニメは深夜まで録画してあります! いつでも貸してあげますから!」 ありがたくて涙が出そうになる。 「メルヒェン部! 学園の平和の為に出撃ですわ!」 「おぉぉぉ!」 「おぉ……」
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