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「この家に住んでたとき、私はまだ小さい子供だったんだけど、いろんなヤマケと話してた。
友達だったっていうか、友達より親しかった」
「それは…」
少し気持ち悪いかも。
「中でもすごく私に優しくしてくれるヤマケがいて、
……私はそれを『おかあさん』って呼んでた。本当の母親は、もう死んでたし」
「そ、そう……」
ひかるは何も言えない。
「『おかあさん』はいろんなことを教えてくれたわ。今朝投げた葉っぱの袋の作り方とか」
「……」
「それで、引越しでこの家を出るとき、『おかあさん』は私に魔法をかけたの」
「魔法?」
「うん。『愛流がみんなに好かれるように』って。『ヤマケにも人間にも、出会ったものすべてに可愛がられますように』ってさ」
「へえ…」
「なんかそれって面倒くさい。だって誰にでも好かれる人なんていないでしょ?
上之宮会長みたく、ハッキリ嫌われてるほうが判りやすくて楽だわ」
どーん…
「だってさ、どうしても判らないよね? 誰かが私に親切にしてくれたとして、
それが本当の気持ちなのか『おかあさん』の魔法なのかってことは、さ」
どーん!
「だから私、」
どーん!!
「真面目に話してるんだから壁を蹴るのやめてよ! 穴あくでしょ」
「僕じゃないよ!」
どどーん!!!
突入!あさま山荘事件。
ひかるの脳裏をそんな言葉がよぎったが何の役にも立たない。
二人のいる部屋の壁が、
クレーンに吊られた鉄球によって崩れ去った。
「天見愛流! 大人しく出てきなさいな♪」
上之宮玲菜が校舎の窓からメガホン片手に身を乗り出している。
【覚書】
裏山探索部と生徒会との争いの根は深い。
……修復はおそらく不可能。
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