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201X年、初冬のある日。
曽根川ひかるは寝坊した。
出向先への初出勤の日のことであった。
「あぁあぁぁーー!! すいませんでした!!!」
誰に謝っているのか自分でも判らないが、
がばと起き上がると40秒で支度を終え愛車に飛び乗った。
愛車はプジョーのパチもんのマウンテンバイクである。
風光明媚にして山紫水明。
要するに豊かな自然とやら以外に見るべきもののないこの町に越してきてまだ20時間足らず。
ぎょぎょぎょぎょぎょ、と嫌な音を立てながらひかるは学園に向かって脇目も振らずにペダルを漕ぐのみであった。
いつだって上の連中のやることは気まぐれだ。
えーと中曽根ひかり君?に国立A県山城学園への出向を命ずる。と。
A県かあーいい所だよーお米はおいしいし温泉はあるし姉ちゃんはキレイだぁ。
アパートは総務でテキト~に手配してくれてるから、すぐ行って。明日から行って。
まあとにかくがんばってネ☆(キラッ)
キラッじゃねー! ひかりじゃなくて僕は曽根川ひかる!
中曽根って誰だよ平成生まれの読者は本当に心当たりがないぞ!!
ぎょぎょぎょぎょぎょぎょ。
内心で上役に悪態を吐きながら一直線に学園を目指す。
この先は上り坂、それを越えればもう目の前に新しい職場があるはず…
「!!」
ひかるは眼前の坂道に目を見張った。
坂の急なことにではない。いろは坂もこのMTBで越えたことがあるひかるであった。
坂道は後姿で満たされていた。
濃紺の制服に身を包んだ女学生の、である。
…青い~山脈~♪
不意にひかるの耳を懐メロにもほどがある旋律が襲った。
幻聴であった。
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