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視界が翳ってゆく。
(やだ…誰か…助けて!)
意識が消え入る寸前に呼んだのは、
誰の名だっただろう。
(……だれか)
誰の名も浮かばなかった。
そもそも孤独な少女であった。
(おかあさんがいるじゃないの)
そこへ、
呼んでいないのに答える声が。
(おかあさんをいつでも頼ってくれていいのよ)
ずっと昔に聞いた声だった。
(おかあさんはいつでも愛流を見守っているの)
それは母親ではなく、
一時『おかあさん』と呼び習わしたヤマケであった。
(おかあさん、これから上之宮玲菜を殺すわね)
「…! やめて…!!」
(上之宮玲菜を……殺す!)
ぶぅぅぅぅん……
辺りに夕闇が降りはじめていた。
山全体を揺るがして、
恐ろしい羽音が、響き渡った。
【覚書】
天見愛流の戦闘能力には問題なし。霊体との交信能力と共に、充分な利用価値を認める。
ただし精神的に留意すべき点あり。
……観察を続ける。
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