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女学生の群れは背後で呆然とする不審人物(ひかる)に気づく様子もなく、
ただ粛々と学園の門を目指して坂を上っていた。
当たり前の登校風景である。
それを教員たる曽根川ひかるが後ろから追っていることが異常であった。異常なほどの遅刻であった。
もう職員会議は終わっているかもしれない。
「どどどいて! ごめん! ちょっと通して!」
ぎょぎょぎょぎょ、ぎょっ、ぎょっ。
必死にハンドルを操って女学生の波を潜り抜ける。
校門の手前まで来たら、急に目の前が開けた。
しめた!
ぎょっ、と一気にペダルを踏み込んだら、
キキーーーッ!
がんっ
別の坂道から上ってきたベンツっぽい車両(パチもんではないようだ)に跳ねられた。
「おはよう、あたくしの巫女たち♪」
黒のぴかぴかしたメルセデスから降り立った人影をひかるは見た。跳ね飛ばされながら空中で。
「…おはようございます、玲菜さま」
「おはようございます、私たちの女神」
「おはようございます、私たちの明けの明星、玲菜さま」
「玲菜さま」「玲菜さま!」「イシュタル!」
女学生たちのよくわからん賛辞を一身に受けながら微笑む人影は、
何故か他の娘らのそれを反転させたような真白い制服を身にまとっていた。
「うふふ、良い子たちね♪ でも普通にしてていいのよ、今日も学園生活を楽しみましょうね♪」
純白のセーラー襟の上に明るい色の髪を揺らして彼女が微笑むと、
巫女たちと呼ばれた濃紺の女学生たちはしずしずと校舎の玄関に吸い込まれていった。
美形だが気持ちの悪い女だ。自分が担任ならひそかに内申点を削りたい。
などと考えながら曽根川ひかるは校門脇の斜面へと愛車もろとも転がり落ちていくのだった。
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