1・学園(登校風景)

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その時、 歴史が動いた。 間違えた その時、 ……山が動いた。 (上之宮玲菜……上之宮玲菜を、殺す!) 曽根川ひかるは確かにその声を聞いた。 芝草の植わった斜面に伏せながら顔だけ上げたが声の主は見当たらない。愛車も見当たらない。 声は……山から響いてきていた。 さっきから坂道坂道と言っているように国立山城学園は坂の上に建っている。 そしてその先にも坂は続いている。 この町を見下ろす小高い山の中腹に学園が位置している、と言ったほうが判りやすいだろう。 その、学園を抱く「山」全体が震え、 白い制服の少女目掛けて殺気を露わにした! ひかるはそう感じた。 びゅんっ 頭上をかすめて何かが飛び去った。 (殺す……上之宮玲菜を殺す!!) 殺気をまとって山側から飛び出したのはカナブンに似た昆虫…のようなもの。 「これはすごい…! こんなん初めて見た」 ひかるはただ息を飲んだ。 カナブン「のようなもの」は、純白の令嬢が乗っていた外国産車を上回るサイズだったのだ。 「いやぁ! イヤーーーー!! 虫っ? ていうか虫なの? 嫌だわウソよね、ってやっぱ虫だし、ちょっと待って、いやっ、誰かー!!」 やけに回りくどい悲鳴を上げているのは、 白い制服の少女…上之宮玲菜だ。 「虫は無理! 虫だけは無理!! カナブンなんて固そうに見えるけど腹側とか絶対絶対触れないし!  羽根がバタバタしてるだけでもう絶対に無理ーーー!! あとなんか足がギザギザ! わかるでしょ!?」 さっきまでの女王然とした態度はどこへやら、 玲菜は泣き声を上げながら両手で頭を覆ったまま立ちすくんだ。 巨大カナブンが羽根を唸らせて上之宮玲菜の頭上へ突進する。 「いや、助けて……!」 (殺す、殺す!!) 不快な羽音の中で悲鳴と謎の声がピークに達した、そのとき。 「油断したわね、上之宮会長っ」 新たな声がひかるのごく近くで聞こえたかと思うと、 何か黒っぽい影が矢のように視界の端をよぎっていった。 「もはや校舎側も安全ではないのよっ!」 ぱんっ 乾いた音がして、ソフトボール大の塊がカナブンにぶち当たった。
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