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「今朝はお見苦しいところをお見せしてしまって恐縮ですわ♪」
いろいろあって一時限目が始まったくらいの時間。
曽根川ひかるの目の前で満面の営業スマイルを見せているのは
白い制服の令嬢、上之宮玲菜その人であった。
「いいえ、全然……気にしてませんから」
ひかるは目を逸らしながら呟くように答えるのでせいいっぱいだった。
「お詫びというわけではございませんけど、生徒を代表してあたくしが学園内を案内させて頂きますわ♪」
「はあ……」
何この「あたくしが」に力を入れた言い方は。
「本当、今朝のことは悪い夢と思ってお忘れくださいませ♪ では参りましょう♪」
「はあ……」
(お忘れくださいったって……ねえ)
巨大昆虫を前に顔を引きつらせて絶叫していた姿は忘れようがない。
しかも、だ。
木の葉のスコールを見たカナブンは、
あの後ふらふらと山へ戻っていったのだが
それからもう一段の修羅場があるとは知らぬ仏のお富さんである。
………
「助けてもらっといてありがとうもないわけ? 上之宮会長っ」
天見愛流と呼ばれた少女は
玲菜に皮肉な笑みを投げかけてそう言った。
「助けた…ですって…? あなたがあたくしを? 天見愛流」
プライドの高い人間にありがちなリアクションだった。
不本意な相手に借りを作ると、何故か怒り出さずにはいられなくなるのだ。
玲菜は唾を飛ばして怒鳴り始めた。
「冗談じゃありませんわ! 大方あれでしょ? 今の虫もあなたがけしかけたんでしょう! 気色の悪い、虫女!!」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。わざとやったんなら止めに入る必要ないじゃないのっ?」
愛流は気色悪いをスルーして淡々と答える。
言われ慣れているのだろうか、どんな境遇なんだ……
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