起 ―異変―

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 ひかるの話は、本当に現実味のないものだった。荒唐無稽、その言葉が似つかわしいとも思った。何せ、最初に彼女の口をついた単語は「魔法」である。持っていた、あの青い水晶玉が付いた杖で魔法を操って戦っていたが、追っ手に追われ、ようやく逃げきったが、あの場所で力尽き、意識を失ったという。 「それで、もともとの体はちゃんと男の子だったのに、今気が付いたら、女の子の体になっていたというわけね」 「はい……」 「証拠か何か見せられるかしら。その、魔法っていうのの」  これでなにか魔法を見せられるなら、この子が望むとおりにしてあげる。そうでないなら、早急に西峰さんか蛍子さんに車を出してもらって、ご両親が心配しないうちにこの子には帰ってもらう。我ながら意地の悪い考えだと思う……けれど、もし何か、ごまかしでも何でも良いから、私を説得するようなことができるのなら、この子に付き合ってあげてもいい、そう思っていた。 「……わ、分かりました。けど、危ないので杖を使わなくてもできる、簡単なもので」  落ち着きを少し取り戻して言い出したひかるは、「電気を消していただけますか」と続ける。  ドアの左にあるスイッチをオフにすると、オレンジ色に照らし出す電球たちが光るのをやめて、室内は真っ暗になる。まもなく部屋はまた先ほどの明るさを取り戻す。違っていたのは、部屋がオレンジ色ではなく青色に照らされていたところだ。 「えっ……電気も消えてるし」  天井に目を向けるが、電球に光がともっている様子はない。更に光源らしき方へ振り返ると、電気を消すまでひかるがいたところには、青い光がともっている。ひかるは両手を差し出していて、その青い光を放っているものを持っている。いや、持っているという表現もこの場合おかしいのだろうか。差し出していた両手の間に、青い光が浮いていた。
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