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「心当たりがないわけじゃないんです」
昨日の夜、蛍子さんお手製のミートパイを食べながらひかるは自分のことについて話し始めた。
「魔法なんて世間一般に知られてないじゃないですか。何でかって言うと、使える人自体少なくて、……それならさっきのぼくみたいに人前で使えば済む話なんですけれど……そうじゃなくて、ぼくのように機関に捕らえられていることが多いんです。それで、ぼくはその機関から逃げ出してきて……」
「そうなの……。それで、あなたのご両親は?」
「二人とも、今はいません」
難しくて、暗い話だった。その後もひかるの話は続いた。
「ぼくの場合、三年前に捕らえられました。そのときは、ぼくたち家族が魔法を使えるなんて……というか、僕自身魔法なんて信じていなかったですけど、いきなり機関の人たちが来たときはびっくりしました。そのときに両親が……。…………それで、機関に使えるような人材にと、魔法の使い方を教えられながら、ずっと機関の中で過ごしていました」
…………。
「魔法なんて、無ければ良かったのに……」
魔法なんて、ファンタジーの世界に存在するものだろうに、ひかるの話はひどく重苦しい。しばらく沈黙が続いたが、私はその沈黙に堪えられず、別の話題を振ることにした。
「ひかるは、今、年いくつなの?」
「……十六です。高校に通えてれば、今二年にあたります」
「そう、なら学年は私と同じなのね。それに通えてない……か」
この時、私の頭に一つのアイディアが浮かんだ。
「うちの学校に通わせてあげるわ」
こういうとき、学園長の孫娘であるという自分の立場を利用するのは良くないことだと思うが、それ以上に、ひかるに外の世界を知らせてあげたいと思った。魔法のない、私たちにとっての日常の世界を。
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